岩手県の取組み
岩手県では、各臨床研修病院の臨床研修プログラム責任者を中心に「いわてイーハトーヴ臨床研修病院群ワーキンググループ」を構成し、県と共同して臨床研修医を受け入れる環境整備に取り組んでいます。
いわてイーハトーヴ臨床研修病院群とは
岩手県内にある12の臨床研修病院がそれぞれの特徴を活かしながら、不足している部分を補いあえるシステムを構築してきました。いわては一つになって、皆さんの臨床研修を支えます。それが、いわてイーハトーヴ臨床研修病院群です。
基本理念:
- 地域背景や経営母体を超えて、良き医師を養成する。
- 研修医にとってベストな研修プログラム、教育環境を構築する。
- グローバルスタンダードに基づく、プライマリ・ケア研修を実践する。
- 研修医とともに医療の質を向上する。
つまり、研修医がプライマリ・ケアを身につけて良い医師になるため、各病院・各指導医がベストを尽くし、より良いものを作り上げるシステムです。
岩手県の臨床研修の特徴
圧倒的な臨床経験
岩手県は広大な面積にも関わらず医師数が少なく、医師偏在指標は全国最下位の47位です。しかし、それだけ研修医が担当する患者数が多いということになります。圧倒的な臨床経験を得ること、それは皆さんを早期にプロフェッショナルへと成長させます。
程よい専門志向と総合診療志向のバランス
岩手の病院では診療科が揃っていない病院も多く、それぞれの診療科が診る範囲を広げることで、地域医療をカバーしています。例えば消化器科医でも脳梗塞診療をする、外科医でも肺炎の治療をするという形です。専門診療を深めつつプライマリ・ケアにも携わることで、引き出しの多い臨床医に育ちます。
ぬくもりのある、医療者を大切にしてくれる県民性
学習において大切なのは「心理的安全性が担保されていること」です。強いストレスは学びの妨げになります。誰もが励まされ感謝されながら働き、学んでいきたいと願うものです。岩手県民にはそれを見守る懐の深さがあります。
グループダイナミクス
一人よりも数人、一つの組織よりもいくつかの組織のほうが、多様な考えが集まり、より良い発想が生まれる。それがグループダイナミクスです。岩手の病院ではお互いの足りない部分を補い合いながら医療を提供してきました。それは臨床研修でも同様に、不足している診療科を他の臨床研修病院で研修する、他の臨床研修病院が得意なものを勉強しに行くといった、たすきがけ研修が可能です。お互いの病院の良いところを学べます。また、いわてイーハトーヴ臨床研修病院群の合同企画では、グループワークを通じてまさにグループダイナミクスを体感することが出来ます。医師としてチーム医療に参加していく礎になります。
いわてイーハトーヴ臨床研修病院群の取り組み
医学生の皆様に向けた取り組み
岩手県臨床研修病院合同説明会
年に数回、全病院参加の臨床研修病院説明会を開催しています。
各病院が自院の特徴をプレゼンテーションし、研修医に質問をすることも可能です。一日で複数病院の説明を聞くことができるので、効率的ですし、臨床研修病院間の違いを比べることが出来ます。
岩手県臨床研修病院合同面接会
全病院が同じ日、同じ会場で採用面接を行う日を設けています。これにより、複数病院を面接する場合に各病院に足を運ぶ必要がなく、併願しやすくなっています。
臨床研修医に向けた取り組み
臨床研修医合同オリエンテーション(平成19年度からの取組み)
県内の臨床研修病院に採用された臨床研修医を対象に、臨床研修を進める上で必要な法令、規則などの知識や基本的な手技などの習得のほか、臨床研修医間のネットワーク形成を図る機会として実施しています。
毎年、4月上旬に開催し、令和5年度は69名が参加。「ドクターG」こと福井大学医学部の林寛之先生による講演のほか、他職種と触れ合うシミュレーションなどを行いました。
2年次の臨床研修医を対象とした臨床能力向上セミナー
県内の臨床研修医(2年次)が一堂に会して、自身の基本的診療能力がこれまでの臨床研修によってどれだけ身に付いているかを確認し、その場で指導を受けることで、一般的な診療において頻繁に関わる疾病に適切に対応できる診療能力のレベルアップを目的として実施しています。
また、研修医が進んで学ぶ場として、平成22年度まで実施した合同OSCE(客観的臨床能力試験)を進化させて開催するほか、令和5年度からは、ACPセミナー(アドバンス・ケア・プランニングセミナー)と同時開催とし、臨床研修が終了した3年目以降、自らが責任ある主治医として医療に携わる上で、患者さんや家族のストーリーを大切にしながら、多職種で関わりを深めつつ意志決定していく方法を学びます。令和5年度は、県内の2年次研修医62名が参加し、県内の指導医を講師に、ロールプレイや腹部・心エコーなどワークショップにより理解を深めました。
その他
県内の臨床研修病院間で共有が望ましいレクチャーは適宜オンラインで各病院に配信し、どこにいてもハイクオリティーな知識を得られるようにしています。
指導医に向けた取り組み
指導医講習会
岩手県では、厚生労働省の指針に沿った臨床研修指導医講習会を、全国で初めて県主催として開催するなど、早くから指導医の養成に取り組んできました。
指導医の指導力、教育力を高めるために、現場ですぐ使える知識を身に着け、問題解決のきっかけを作ることを目標とした内容にしています。講習会修了後もファシリテーターとして参加することでFD(指導医のスキルアップ)にもつながります。
指導医の状況
岩手県内12の臨床研修病院の指導医数は672名。このうち指導医講習会を受講した医師は516名(受講率76.7%/令和5年4月1日現在)で、充実した臨床研修指導体制が築かれています。
令和5年度は、集合形式で岩手医科大学と共催で開催し、ハイレベルな臨床研修指導医講習会を開催するなど、指導医の資質向上を図っています。
研修医数 (a) | 指導医数 (b) | (b)のうち 指導医講習会 受講数(c) | 受講済み指導医と 研修医の比率 (c):(a) |
---|---|---|---|
130名(※) | 672名 (令和5年4月1日現在) | 516名 (令和5年4月1日現在) | 約4 : 1 |
県別にみた臨床研修病院指導医講習会受講者数及び率(基幹型のみ)
指導医数 | 受講者数 | 受講率 | |
---|---|---|---|
岩手県 | 672 | 516 | 76.7% |
青森県 | 794 | 619 | 77.9% |
宮城県 | 1,593 | 1,103 | 69.2% |
秋田県 | 819 | 656 | 80.0% |
山形県 | 680 | 490 | 72.0% |
福島県 | 1,071 | 911 | 85.0% |
東北計 | 5,629 | 4,295 | 76.3% |
臨床研修病院ピアレビュー
臨床研修病院同士で研修環境・システムを評価しあい、改善点は指摘し、良い点は見習い、県内全体で研修システムを改善していきます。
先進地視察
全国各地から臨床研修医が集まる、先進的な取り組みを行っている臨床研修病院を視察し、学び、県内臨床研修病院の研修の質の向上、魅力あるプログラム・研修環境の整備、充実を図っています。
その他の取り組み
医師のキャリア形成に対応した取組み
魅力ある専門研修プログラムの構築など、医師のキャリア形成に対応した育成の方向性について検討しています。
キャリアアップイメージ
全国随一の公的医療機関のネットワーク
岩手県では、県立病院20病院、地域診療センター6施設を設置しているなど、全国随一の公的医療機関のネットワークを構築しています。
こうした環境を生かし、各臨床研修病院では訪問診療を組み込むなど充実した地域医療研修メニューを設定しています。
高度医療施設、最新の医療機器
岩手県には、特定機能病院として岩手医科大学附属病院、同じく岩手医科大学には、全国で7番目に認定された岩手県高度救命救急センターなど、高度医療施設が設置されています。
救急分野では、岩手県高度救命救急センターのほか、県内陸部の県立中央病院や県沿岸部の県立大船渡病院及び県立久慈病院に救命救急センターが設置されています。また、各病院には最新鋭の医療機器が導入され、高度な医療を提供する体制が整備されています。
岩手県 新・医師確保対策アクションプラン
医師の養成・確保及び定着対策
- 奨学金等医師養成事業
- 医学部進学者の増加対策
- 奨学金養成医師の計画的な配置
- 奨学金養成医師の県内臨床研修病院での臨床研修の原則義務化
- 奨学金養成医師の交流機会の場づくりによる義務履行修了後の県内定着促進
- 県外で従事している即戦力医師の招聘活動
- 自治医科大学卒業医師のへき地等の公的医療機関への配置
医師偏在対策
- 奨学金養成医師の計画的な配置(再掲)
- 研修中の養成医師の医師少数区域の公的医療機関への診療応援や短期派遣の調整
- 自治医科大学卒業医師のへき地等の公的医療機関への配置(再掲)
- 地域医療支援機構によるへき地等の公的医療機関への医師派遣
- 積極的な偏在対策の実施に関する国への提言等
医師のキャリア形成支援
- 医師支援調整監等による中長期的なキャリア形成支援による専攻医の確保・定着
- 専門研修の指導体制や専攻医の受入態勢の充実
- 総合診療医のキャリア形成支援
- 奨学金養成医師に対応したキャリア形成プログラムの充実
- 岩手医科大学と連携した県内臨床研修医に対する海外短期研修の実施
医師の働き方改革に対応した勤務環境改善支援
- 医師の働き方改革に対応した勤務環境改善
- 女性医師やシニア世代の医師等の多様な働き方の支援
地域医療の確保に向けた働きかけと情報発信
- 県民総参加型の地域医療体制づくり
- 積極的な偏在対策の実施に関する国への提言等(再掲)
県内臨床研修医の動向など(県内勤務等者数及び率)
受入年度 | 臨床研修医(受入) | a : 研修修了者 | b : うち県内勤務等者 | b/a : 県内勤務等率 |
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(参考)H15 | 38名 | – | – | – |
H16 臨床研修必修化 | 58名 | 54名(H18.3) | 44名 | 81.5% |
H17 | 65名 | 65名(H19.3) | 56名 | 86.2% |
H18 | 76名 | 75名(H20.3)※1 | 62名 | 82.7% |
H19 | 57名 | 56名(H21.3) | 44名 | 78.6% |
H20 | 66名 | 66名(H22.3) | 55名 | 83.3% |
H21 | 74名 | 73名(H23.3) | 57名 | 78.1% |
H22 | 69名 | 69名(H24.3) | 59名 | 85.5% |
H23 | 68名 | 68名(H25.3)※2 | 58名 | 85.3% |
H24 | 67名 | 67名(H26.3) | 51名 | 76.1% |
H25 | 61名 | 61名(H27.3) | 43名 | 70.5% |
H26 | 67名 | 67名(H28.3)※3 | 56名 | 83.6% |
H27 | 77名 | 79名(H29.3)※4 | 60名 | 75.9% |
H28 | 67名 | 66名(H30.3) | 50名 | 75.8% |
H29 | 70名 | 71名(H31.3)※5 | 53名 | 74.6% |
H30 | 76名 | 76名(R2.3)※6 | 56名 | 73.7% |
R1 | 75名 | 76名(R3.3)※7 | 65名 | 85.5% |
R2 | 61名 | 58名(R4.3)※8 | 49名 | 84.5% |
R3 | 67名 | 68名(R5.3)※9 | 58名 | 85.3% |
R4 | 61名 | 61名(R6.3) | 41名 | 67.2% |
R5 | 69名 | – | – | – |
R6 | 74名 | – | – | – |
※2 平成25年2月末修了者を含む
※3 平成28年7月修了者1名を含む
※4 平成27年9月及び平成28年1月の中途受入2名を含む
※5 平成31年4月修了者1名を含む
※6 令和元年5月の中途受入1名を含む
※7 令和3年9月修了者2名を含む
※8 令和4年6月修了者1名、令和4年9月修了者1名を含む
※9 令和3年11月中途受入1名を含む
勤務医の勤務環境向上支援の取組み
勤務医の勤務環境向上支援の取組み
産科医、新生児担当医確保、中核病院の病診連携、院内保育(夜間、病児等保育)事業などへの支援を行います。
子育て世代医師の育児参加支援の取組み
- 女性医師専用宿直室(シャワー室)有
- 女性医師専用休憩室も整備・順次拡大
- 24時間利用可能な院内保育所の設置
- 幼児等保育送迎
- 病児保育も順次拡大
- 時短勤務、部分休業
- 男性職員の育児参加休暇
- 介護休暇 など